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『阿波連さんははかれない』レビュー|“近すぎる距離感”が生む、笑って癒される青春コメディ

ぬいぐるみ風にデフォルメされた阿波連さんとライドウくんが、青空の下で向き合って立っている。上部には『阿波連さんははかれない』レビューと、「“近すぎる距離感”が生む 笑って癒される青春コメディ」のキャッチコピーがカラフルに表示されている。
目次

第1章|作品概要と基本情報

“距離感”って、こんなに面白くて、こんなにやさしいものだったっけ?

『阿波連さんははかれない』は、水あさと先生による同名マンガを原作としたアニメ作品。2022年春クールに放送され、その独特の空気感とクスッと笑える“ゆるコメディ”で、多くの視聴者の心を掴みました。

舞台はごく普通の高校。転校生のような目立ち方はないけれど、どこか不思議な雰囲気をまとったヒロイン・阿波連れいなと、彼女の隣の席に座る男子高校生・ライドウの二人が織りなす、“近すぎる”日常の物語です。

作品基本データ:

  • タイトル:阿波連さんははかれない
  • 原作:水あさと(集英社『少年ジャンプ+』連載)
  • 放送時期:2022年4月〜6月(全12話)
  • 制作会社:FelixFilm
  • ジャンル:学園コメディ/ゆるラブコメ
  • 配信:各種サブスクにて配信中(dアニメ、Netflix ほか)

本作の最大の魅力は、ヒロイン・阿波連さんの“距離感バグ”とも言える行動と、それをあたたかく受け止めるライドウくんのやさしさの掛け合いにあります。

阿波連さんは見た目は小柄で無口。でも突然とんでもなく近くに来て話しかけたり、逆に全く反応がなかったり。人との距離を“測る”のが苦手な彼女の行動に、ライドウくんは毎度びっくりしながらも、彼女を理解しようと努力を重ねます。

そこにあるのは、爆笑でもドタバタでもなく、じんわりとした「笑い」と、ふんわりした「癒し」。
まるで毛布のように心を包んでくれる優しさが、本作全体を通して流れています。

また、演出や間の取り方、BGMのセレクトも非常に繊細で、派手な展開がなくても最後まで飽きずに見続けられるのも特徴の一つです。

青春ラブコメと一言で言っても、“ドキドキ”や“胸キュン”を売りにする作品が多い中で、あえてテンションを抑え、日常の「ズレ」と「空気感」で魅せていく『阿波連さんははかれない』。このスタンスが、多くの視聴者にとって「ちょうどいい」距離感として響いているのかもしれません。

第2章|阿波連さんの“距離感バグ”が生む絶妙な笑い

阿波連れいな――彼女の最大の魅力は、何と言ってもその“はかれない距離感”にあります。

初対面ではまるで感情が読み取れず、「無口」「クール」「関わりにくい子」と思われがちですが、実はその正体、ものすごく“人懐っこい”女の子。いや、“人懐っこすぎる”と言ってもいいかもしれません。

たとえば、クラスで初めて隣の席になったライドウくんと話すとき、阿波連さんはいきなりライドウの顔面数センチの距離に接近。耳元でささやくように話しかけてきたり、逆に全然返事をしなかったり――その“振り幅”の大きさこそが、この作品の笑いの原点です。

無表情から繰り出されるギャップの破壊力

阿波連さんは基本的に表情に乏しく、淡々としています。喜怒哀楽の表現が控えめなのに、いきなり大胆な行動をとる。この「行動」と「表情」のギャップが、なんとも言えない絶妙な可笑しさを生み出します。

ライドウくんは彼女の挙動に戸惑いながらも、どこかで“あ、また来たな”と受け入れる。そして、阿波連さんの行動がどういう意味なのかを、毎回必死に考察し始めるのですが……

「もしかして、阿波連さんは極秘スパイなのでは……?」
「これは俺を訓練しているつもりなのか……?」

そんな“ありえない妄想”を真顔で展開しはじめるライドウくんとのやり取りがまた、シュールでクセになります。

「大げさすぎる妄想」と「現実のちぐはぐさ」のバランス

この作品が面白いのは、ライドウの妄想と現実との“落差”が毎度ユニークだから。視聴者は「また突飛な想像を…」とクスッと笑いながら、次の瞬間「まさかの本当にそれっぽい展開!?」と驚かされたりもします。

ですが、結局は拍子抜けするほど平和で、ちょっと不器用な人間関係が広がっているだけだったりして――この裏切り方がまた秀逸なんです。

阿波連さんは“かわいい”の新しいカタチ

ヒロイン像と言えば、感情豊かで元気で、あるいはツンデレや天然系……といったテンプレが思い浮かびますが、阿波連さんはそういったイメージを良い意味で裏切ってくれます。

彼女の“かわいさ”は、声が小さすぎて聞こえなかったり、字が小さすぎたり、急にハマり出すマイブームが極端だったりと、どれもクセ強め。それなのに、嫌味が一切なく、むしろ「こういう子、愛おしいな……」と思わせてくれる不思議な魅力を持っています。

この「はかれない=わかりづらい」の中に、じつは“真っ直ぐすぎる優しさ”が潜んでいる。そのギャップが、じんわりと心に残るのです。

第3章|ライドウくんのやさしさと想像力の暴走

“普通の男子高校生”として登場するライドウくん。
けれど彼は、ただの受け役ではありません。むしろ彼の想像力――いや、もはや“妄想力”と言うべき能力が、物語を大いにかき回しているのです。

阿波連さんとの出会いで開花する「深読みスキル」

阿波連さんの奇妙な行動に直面するたびに、ライドウくんは冷静に(?)それを分析し、あらゆる可能性を思いつきます。

「阿波連さんが急に距離を詰めてきたのは、もしかして俺を監視している……?」
「反応が薄いのは、言語の異なる異星人だからでは……?」
「これは阿波連流の格闘技の構えなのでは……?」

などなど、一般的な高校生活からは逸脱した、あらぬ方向への解釈が毎回炸裂。
この“やりすぎ妄想”がテンポよく挿入されることで、視聴者は阿波連さんの静かな奇行とライドウの過剰なリアクションという、絶妙なバランスの笑いを楽しむことができるのです。

ボケ×ボケの珍しい関係性

多くのコメディ作品では、ボケとツッコミという役割分担がはっきりしていますが、本作ではその境界があいまいです。

阿波連さんは無自覚な天然ボケ。
ライドウくんは冷静なツッコミ役かと思いきや、その妄想の暴走っぷりでむしろ“二段階ボケ”のような構造になっており、結果的に「ツッコミ不在」の奇妙なやりとりが続きます。

このボケ×ボケ構造は、観る人に「次はどう来る?」という予測不能な面白さを提供してくれます。
しかもそのやり取りは終始穏やかで、声を張ったり激しい動きもない。にもかかわらず、なぜか笑ってしまう――これこそが『阿波連さんははかれない』の中毒性です。

妄想に隠された“やさしさ”

ライドウくんの妄想は突拍子もないものばかりですが、その根底にあるのは“阿波連さんの気持ちを理解したい”という、彼なりの誠実さです。

彼は阿波連さんの行動を「変だから排除しよう」とか「おかしいから距離を置こう」と考えるのではなく、
「どうしてそんな行動をとったのか?」
「もしかしたら、こんな理由があるんじゃないか?」
と、常に彼女の内面に寄り添う形で解釈しようとします。

それが妄想になって暴走するのはご愛敬。むしろそれだけ彼女に対して真剣に向き合っているという証拠なのです。

このやさしさが、作品全体にやわらかい空気をもたらし、「ギャグなのに温かい」という感覚を視聴者に与えています。


第4章|癒しと笑いのバランスが絶妙な演出

『阿波連さんははかれない』の魅力は、ただのギャグアニメにとどまりません。
笑えるだけでなく、“癒される”。この不思議な両立こそが、多くの視聴者を惹きつけている最大の要因です。

静かに流れる時間の心地よさ

本作を観てまず感じるのは、落ち着いたテンポ。
ギャグアニメにありがちなテンションの高さや、テンポ重視のカット割りではなく、あくまで「ゆるやか」に、時間が流れていきます。

セリフの“間”、沈黙、風景、微妙な表情――そうした「静」の要素が非常に丁寧に描かれていて、観ている側も自然と肩の力が抜けてくるのです。

たとえば、阿波連さんが小さなガチャガチャに夢中になったり、折り紙にハマってライドウの机を埋め尽くしたり……そんな些細な日常の出来事に、ほっこりとした笑いと優しさが込められています。

BGMと効果音の“主張しすぎない存在感”

癒しを演出するうえで欠かせないのが、音の力です。
『阿波連さんははかれない』のサウンドトラックは、控えめでありながらも非常に効果的。

ピアノの柔らかな旋律や、木管系のあたたかみのあるメロディが、二人の空気感をより引き立ててくれます。
また、ギャグパートでも過度な効果音は使用されず、くすっと笑える“ゆるい笑い”を支える静かな演出が光ります。

これにより、作品全体が“うるさくない笑い”として成立しており、深夜に観ても心がほぐれていくような、不思議な癒し効果を生み出しています。

絵作りの柔らかさと色彩設計

キャラクターデザインは、丸みを帯びた優しい線。背景美術も、過度なリアリズムに寄らず、どこか“記憶の中の学校”のような温かさを感じさせます。

特に光の使い方が絶妙で、朝のホームルーム前の柔らかい光や、夕暮れの教室など、“何気ない時間”をとても美しく見せてくれます。

色彩も原色を避けた淡いトーンが中心で、視覚的な疲労感がなく、目に優しいデザインが全体に貫かれています。これもまた、癒しの要素として大きな役割を果たしているのです。

“見終わったあとに心が静かになる”作品

最近のアニメは、刺激的な展開や高密度な情報量が多く、観終わったあとにどっと疲れてしまうことも少なくありません。
その点、本作は逆。

大きな事件は起きないし、世界も救わない。だけど、日々の中にある“やさしいズレ”や“ちょっとした気づき”を笑いながら見守ることができる。
視聴後には、あたたかいお茶を飲んだときのような、静かな満足感が残るのです。

ギャグアニメでここまで“ヒーリング効果”がある作品は、実はとても貴重。
この絶妙なバランス感覚こそが、『阿波連さんははかれない』の真価だと言えるでしょう。

第5章|サブキャラたちの“いい味”と物語への関わり

『阿波連さんははかれない』は、主人公の阿波連さんとライドウくんのやり取りが中心ではありますが、それを支える“脇役たち”の存在も忘れてはいけません。

一見静かで小さな世界のように見えて、実は豊かなキャラクターたちがそれぞれの彩りを加えており、作品全体の“あたたかさ”や“リズム感”を見事に補完しています。

佐藤ハナコさん|「超察しがいい」親友ポジション

阿波連さんの唯一無二の親友・佐藤さんは、クールで落ち着いた美少女タイプ。
ですがその中身はとにかく“察しが良すぎる”。

阿波連さんの小さな変化や、ライドウとの微妙な距離感にすぐ気づき、「これはそういうことね……」と静かに見守る姿勢がとても好印象です。

彼女は直接的に物語を動かすタイプではありませんが、視聴者の目線に近い「観察者」として機能しており、ふたりの関係性をさりげなく後押しする名バイプレイヤー。

また、決して出しゃばらず、それでも存在感があるというバランスも絶妙で、こういった“第三者のやさしさ”が作品の魅力を引き立てています。

石川くんと大城さん|ボケとツッコミの別軸コンビ

ライドウのクラスメイト・石川くんは、実は常識人寄りでツッコミ役に近いキャラクター。
そこに現れるのが、彼にガチ恋(そしてガチストーカー気味)な女子・大城さん。

この二人が登場することで、ライドウ&阿波連ペアとはまた別のテンポと笑いが生まれます。

特に大城さんの“偏愛っぷり”は突き抜けていて、毎回斜め上の行動を取る彼女に石川くんが困惑しながらも優しく受け入れる様子が、実はほのぼの癒し枠でもあります。

このように、メインとは別のカップル(?)として存在することで、物語に広がりと深みを与えています。

クラスメイトたち|“変わっているけど温かい”世界観の象徴

作中にはさまざまなクラスメイトたちが登場しますが、彼らの反応が全体的に“ゆるくて肯定的”なのが印象的です。

変わった行動をする阿波連さんに対して、誰もバカにしたり否定したりしない。むしろ「そういう子だよね」と受け入れる姿勢があたりまえになっている世界観は、ある種の理想郷のようでもあります。

視聴者が感じる「この作品は安心して観られる」という感覚は、こうした周囲のキャラクターたちの“やさしさの総和”によって支えられているのです。

サブキャラが生む、物語の“呼吸”

阿波連さんとライドウのやり取りは、一定のリズムで展開されていきます。そこにサブキャラたちの個性が加わることで、緩急が生まれ、テンポが崩れずに最後まで心地よく物語を楽しめます。

まるでメトロノームのように、静かで一定に進むメインストーリーに、時折くすぐるようなアクセントを添えてくれる――それが、彼らサブキャラたちの存在意義なのです。

第6章|表現の“引き算”が生む独特の世界観

アニメ『阿波連さんははかれない』を語る上で欠かせないキーワードの一つ――それが“引き算の美学”です。

アニメ作品の多くは、テンポを速くしたり、感情表現を誇張したり、音や色を強調して「わかりやすさ」を優先することが少なくありません。しかし本作では、それとは真逆のアプローチが採用されています。

余白を活かす、静けさを楽しむ、感情をあえて抑える――そういった「引き算」の演出によって、他の作品にはない独特の空気感が生まれているのです。


セリフの“少なさ”がもたらす想像の余地

阿波連さんは言葉数が極端に少ないキャラクター。
「……うん」や「……そう」といった、短くて曖昧なセリフが多く、明確な意図を読み取るのが難しい瞬間がよくあります。

でもそれが、逆にいい。

視聴者は彼女の言葉の“裏”を想像し、表情や行動から「本当はどう思っているのだろう?」と考えることになります。
この“受け手の想像力を刺激する余白”こそが、作品を一段階深く味わわせてくれるポイントなのです。


静けさが感情を際立たせる

騒がしさや賑やかさではなく、「沈黙」「間」「静けさ」を巧みに使うことで、本作はむしろ感情の輪郭をくっきりと浮かび上がらせています。

たとえば、阿波連さんがふと目を伏せる、ライドウくんが少しだけ表情を曇らせる――そんな些細な“変化”が、静かな演出の中でこそ強く印象に残ります。

これにより、感情の波がさりげなく、しかし確かに伝わってくるのです。


説明しない勇気、見せない強さ

今のアニメ界では、わかりやすく丁寧に「解説」することが好まれます。伏線を説明し、キャラの心理をナレーションで補足し、視聴者を置いていかない工夫がされがちです。

しかし『阿波連さんははかれない』は、説明を“しない”ことを選びます。
なぜ阿波連さんはそんな行動をするのか、なぜライドウは突拍子もない考察をするのか――それは物語の中で“語られないまま”進んでいきます。

その“余白”こそが、作品の信頼感でもあります。
「観ているあなたなら、わかるでしょ」
そう語りかけるような、静かな包容力があるのです。


動きすぎないキャラクターたち

アニメでは、キャラクターが激しく動くことが多いですが、本作のキャラは基本的に“あまり動きません”。
むしろ止め絵やスローモーション的な演出が多く、動かないことで印象的なシーンを演出しています。

この抑制された動きが、視聴者の感情を逆に引き込んでいく。
ギャグパートでもドタバタしすぎず、ほのぼのとした笑いを支えるのに一役買っているのです。


“引き算”の結果として生まれる中毒性

こうして丁寧に丁寧に「削ぎ落とされた」表現は、驚くほど心に残ります。
派手さはないのに、観終わったあとになぜかまた観たくなる――そんな不思議な中毒性を持っているのは、この“引き算”が生み出した密度の高さゆえです。

感情を押し付けるのではなく、そっと寄り添ってくれる。
『阿波連さんははかれない』は、まさに「静かな熱量」を持つ作品なのです。



第7章|“恋”の気配と、それを包む優しい空気

『阿波連さんははかれない』は、明確に「恋愛アニメ」と謳っているわけではありません。
告白やキス、三角関係といったドラマチックな展開もほとんどない。

しかし、ふたりの間には確かに“恋”があるのです。
そしてそれは、静かで、やさしくて、どこまでもあたたかい空気に包まれています。


明言されない“好き”が、むしろ尊い

阿波連さんとライドウくんの関係は、友情と恋のちょうど中間。
互いに強く惹かれ合っているのに、それをはっきりと言葉にはしない。けれど、視聴者には「これはもう恋だよね?」と感じさせてくる描写が随所にちりばめられています。

たとえば――

  • 離れていると少し寂しそうな表情をする
  • 距離が近くても嫌がらない
  • 相手のちょっとした変化にすぐ気づく
  • 言葉は少ないけれど、仕草や視線がやさしい

どれも大げさではなく、ほんの些細な描写。
でも、その積み重ねが視聴者の心にじんわり染みてきます。


“付き合ってないけど特別”という絶妙な関係

作中では、ふたりが明確に恋人になる描写は描かれません。
それでも、ふたりが一緒にいる時間は誰よりも長く、誰よりも穏やかで、お互いにとって“安心できる存在”になっています。

この“関係のあいまいさ”が、本作の持つ魅力のひとつです。

「なんで付き合わないの?」
「もっと進展してもいいのに!」

そんなもどかしささえも、作品のやさしさで包み込んでくれる。
はっきりと名前のつかない関係性こそが、一番リアルで、一番尊いのだと教えてくれるのです。


最終話が教えてくれる“変わらないけど変わったこと”

最終話で、ふたりの関係に大きな事件は起きません。
でも、観たあとにははっきりと「このふたりの距離、ちょっとだけ縮まったな」と感じられる。

派手な展開で感情を煽るのではなく、日常の中にほんのわずかな変化を忍ばせる――その手法が実に見事で、視聴者の心に自然な感動を残します。

特に、ライドウが阿波連さんの不安を優しく受け止めるシーン。
あれは“恋の告白”ではないけれど、確実に「想い」が伝わっている瞬間です。


“恋愛未満”だからこそ伝わるやさしさ

多くの恋愛作品では、「好き」と言って初めて物語が動き出します。
しかし『阿波連さんははかれない』では、「好き」と言わなくても、想いはちゃんと伝わっている。

むしろ言葉にしないからこそ、その感情は静かに、深く、心に残ります。

ふたりの関係性は、誰かと一緒にいたくなる、ただそばにいたいと願う、そんな気持ちの原点を思い出させてくれます。

それはまるで、春の陽だまりのような恋。

強く主張するでもなく、焦がれるように苦しむでもなく、ただ“好き”という気持ちを、自然体で共有し合う。
そんな恋のかたちが、この作品には確かに存在しています。

第8章|『阿波連さんははかれない』が与えてくれるもの

『阿波連さんははかれない』は、一見すると「ただのゆるいコメディ」に見えるかもしれません。
けれど見終わったとき、心の中にほんのりとあたたかさが残り、「またこの世界に戻ってきたい」と思わせる、そんな不思議な力を持つ作品です。

この章では、本作が私たちに与えてくれる“価値”や“気づき”を、もう一歩深く掘り下げていきます。


人との「距離感」に悩む人へのやさしい処方箋

現代社会では、人間関係の“距離感”に悩む人が多くいます。
「近づきすぎると重いと思われるかな」
「でも、離れすぎても冷たいって思われそう……」
そんな“はかれない”距離の悩みは、誰しもが一度は経験したことがあるはず。

阿波連さんは、まさにその象徴です。
近づきすぎてしまう。離れすぎてしまう。言葉がうまく伝わらない――

でも、そんな彼女をライドウくんは否定せず、むしろ理解しようと寄り添います。
この姿勢にこそ、現代に生きる私たちが学ぶべき“優しさ”があるのです。


“わからない”を恐れずに向き合う勇気

阿波連さんの行動は、常に予測不可能です。
しかしライドウくんは、そこに「理由があるはず」と信じて、勝手に妄想を膨らませたり、ときには直接話を聞いたりして、彼女と向き合い続けます。

このやりとりから伝わってくるのは、“理解しようとする気持ち”の大切さ。

人はみんな違うから、時には“わからない”こともある。
けれど、“わかろうとする姿勢”だけでも、それは相手にちゃんと届く。

本作がやさしいのは、そういう“努力する姿”をそっと肯定してくれるところにあります。


静かだけど、確かな“安心感”

『阿波連さんははかれない』には、「否定」や「衝突」といった要素がほとんど登場しません。
誰かが誰かを傷つけることもなければ、大きな喧嘩や裏切りもない。

すべての人が、他者をそのまま受け入れようとする――この穏やかな世界観こそが、視聴者に“安心”と“居場所”を与えてくれます。

日常生活の中で少し疲れてしまったとき、この作品を見ると、ふっと肩の力が抜けるような感覚になるのです。


「何も起きない日常」がいちばん美しい

ドラマチックな展開はありません。
でも、だからこそ「何気ない日常の尊さ」がくっきりと浮かび上がります。

朝、隣の席に座って「おはよう」と言うこと。
一緒にお弁当を食べること。
黙って並んで歩くこと。

そういったささやかな時間が、どれほど心を満たしてくれるか――
本作は、その価値をそっと教えてくれる作品です。


見終わったあとに残る、優しい余韻

最終回を迎えても、「このあと、ふたりはどうなるんだろう」と想像したくなる。
だけどそれは、“気になるから”ではなく、“この世界が好きだから”という理由。

まるで読後にホットミルクを飲んだような、あたたかくて優しい余韻が、心に残ります。

そんな“感情の余白”を残してくれる作品だからこそ、何度も観返したくなってしまうのかもしれません。

第9章|まとめとおすすめしたい人

『阿波連さんははかれない』は、派手さやスピード感こそありませんが、静かな感情と繊細なやり取りで“人と人の距離”を丁寧に描いた、極めてユニークな青春コメディです。

日常の中に笑いがあり、癒しがあり、やさしい気づきがある。
“はかれない”からこそ惹かれ合い、“わからない”からこそ近づきたくなる――そんな人間関係の本質を、そっと教えてくれる作品でした。


総評:やさしさと空気感で魅せる、新しい青春コメディ

  • テンションで押さないギャグ:阿波連さんとライドウくんの、静かだけど破壊力のある“間”のギャグは唯一無二。
  • 表現の引き算:セリフも演出も抑制されているからこそ、余白が豊かに感じられる。
  • 視聴後の満足感:物語が終わっても、どこかそばに残り続けるような安心感がある。

いわゆる“ラブコメ”や“日常系”とは少し違う立ち位置でありながら、どちらの良さも併せ持つ、不思議なバランス感覚を持った作品です。


こんな人におすすめ!

✔️ 忙しい日々に疲れたあなたに

→ ガチャガチャした展開に疲れてしまった人には、癒し効果抜群。寝る前の“やさしい処方箋”として◎

✔️ 静かな作品が好きな人に

→ 登場人物は感情の起伏が控えめ。それでも確かに伝わる気持ちの機微が好きな方にぴったり。

✔️ 人との距離感に悩んだ経験がある人に

→ 阿波連さんの“うまく伝えられない”という姿に共感する方も多いはず。そんな方には強く刺さる作品です。

✔️ ふんわりした恋が見たい人に

→ 告白もデートもないけれど、「これはもう両想いじゃん!」と思わず微笑んでしまう関係性が魅力。


今後への期待

2022年の放送以降、SNSを中心に「2期まだ?」「もっとふたりを見ていたい!」という声が絶えない本作。
原作マンガはまだ続いているため、アニメ続編の可能性も大いにあります。

特に、後半に進むにつれて深まるふたりの関係や、サブキャラたちの新しい一面をアニメで観られる日が来ることを、ファンは心から待ち望んでいます。


最後に:近すぎるからこそ、伝わるものがある

“ちょうどいい距離感”は、人それぞれ違います。
でも、大事なのは「その人と向き合いたい」という気持ちを持ち続けること。

阿波連さんとライドウくんは、その“向き合う姿勢”を通して、静かに、でも確実に心を通わせていきました。

大声じゃなくても、言葉が足りなくても――
ちゃんと伝わるものがある。

『阿波連さんははかれない』は、そんな当たり前だけど忘れがちな“人とのつながり”を、優しく思い出させてくれるアニメでした。


📺 あなたもぜひ、この“ちょうどよくて愛おしい”世界をのぞいてみてください。
きっと、ふたりの関係性に癒されて、思わず笑顔になれるはずです。



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